【知はうごく 文化の衝突】最終編 知財の時代を迎えて(中)(産経新聞) - goo ニュース【知はうごく 文化の衝突】最終編 知財の時代を迎えて(中)
2007年7月4日(水)03:32
■違法コピー忍耐の日々
知的財産権は、脱工業化社会に移行する先進国にとっては生きるための糧となるが、工業化を進める途上国にとっては足かせとなることも多く、せめぎ合いは激しさを増している。また、「知財」に対する認識がほとんどない国々も少なくない。このため、世界各国で知財をめぐるトラブルは増え続けており、出口が見えない“知財の南北問題”が深刻になっている。(知的財産取材班)
■中国、摘発には腰重く
中国・上海市の中心街に昨夏オープンした大型商業施設「淘宝城」。大型ビルの1~3階に300もの小さな店舗がひしめき合う、上海では典型的な形態の市場だ。
「AIC(工商行政管理局)が来た!」
今年4月の昼下がり、のんびりした市場が喧噪(けんそう)に包まれた。偽ブランド品販売業者の摘発だ。制服姿の係官が店舗に立ち入り、トレーナーやTシャツを片っ端から押収する。商品に描かれたスポーツブランドの商標や人気キャラクターが商標権や著作権を侵害していたものとみられる。
※動画でごらんいただけます(www.sankei.co.jp/chizai)
摘発現場は黒山の人だかりができたが、一歩引いて見渡すと、他の店は落ち着いており、摘発の最中も、模倣ブランド商品を売るために猛烈な客引きをしている。
「慣れっこです」。上海の摘発事情に詳しいブランド・コンサルタントが苦笑する。
市内にある別の市場「融富百貨」でも「AICが動く」との情報が飛び交っていた。健康食品、映画DVD、高級ブランド品などを売る店が100店舗ほどひしめき合っているが、コンサルタントは「99%が模倣品か海賊版。健康食品は本当に危険」と警鐘を鳴らす。価格は正規品の1割程度。知的財産権を守ろうという意識は皆無だ。
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■巨大市場 日本企業「関係絶てぬ」
違法業者の摘発に中国当局が主体的に動くケースはほとんどない。被害を受けた企業が証拠をそろえ、当局に告発することで初めて摘発に至る。企業側は知的財産権を侵害されながら摘発に費用と手間をかけなければならない理不尽な世界だ。
「自社ブランドを守るための戦いだ」
日本のある大手電子部品メーカーは自社部品が横流しされ、異なる規格で使用されている状況に頭を抱えている。
大きさが縦横とも1ミリに満たない極小コンデンサーは、携帯電話に不可欠だが、世界中で量産できるのは数社の日本メーカーのみ。これが横流しされ電子機器に不適正に組み込まれる事例が横行している。製品は故障しやすい粗悪品となり、部品メーカーのブランドも損なわれてしまう。
この部品メーカーは、現地コンサルタントを雇って証拠を集め、当局に告発している。昨秋には、調査開始から3カ月で摘発に踏み切った当局に対し、感謝の盾を贈るなど関係強化に懸命だ。
担当者は「すべておぜん立てをしないとやってくれない」と苦々しい胸の内も打ち明けるが、中国という巨大市場との関係を絶つわけにはいかない。忍耐の日々が続く。
特許庁によると、中国では家電やバイクなどの工業製品をはじめ、DVDソフト、電子部品に至るまで、あらゆる日本製品の違法コピー製品が出回り、被害額は2002年で9兆円に達したとされる。
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■世界に拡散、中国模倣品 事故多発、対策急務
中国で作られた模倣品・海賊版は世界中に拡散している。世界税関機構などの資料では、全世界の模倣品の取引額は推計81兆円(2005年)。これらの多くは「まず中国で作られたと疑われる」と日本貿易振興機構(JETRO)の水田賢治・知的財産課長代理は指摘する。
中国の知財権侵害にしびれを切らした米政府は4月、世界貿易機関(WTO)に提訴。米通商代表部(USTR)がWTOの紛争処理小委員会(パネル)の場で、改善を強く迫る構えだ。しかし、違法商品は産業として深く根を下ろしており、解決は容易ではない。
「この模倣品では事故が多発し、数万人が死んでいる可能性がある」
JETRO北京センターの後谷陽一・知的財産権部部長は、同センター内の「ニセモノ展示館」で展示している日本製ボールベアリングの模倣品を指さして苦々しく語った。バイクの車軸に利用されるが日本製と比べ耐久性が大幅に劣り、走行中に車輪がロックして乗員が投げ出される事故が相次いでいる。
約150点を展示するニセモノ展示館は、日中の企業に、知財侵害問題の理解を深めてもらおうという啓蒙(けいもう)活動の一環だ。
※動画でごらんいただけます(www.sankei.co.jp/chizai)
後谷部長は「中国に高圧的に法律改正や摘発強化を要求しても意味がない。情報や経験の少なさをサポートし、知財インフラを整備する視点で解決を目指す」と協力する姿勢を示す。
世界的な問題となった中国の模倣品・海賊版。解決には、米国の北風作戦と日本の太陽作戦のどちらが有効だろうか。
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□経産省 北畑隆生・事務次官
■「何を守ればいいのか」官民で議論を
「世界の知財情勢は二極化が進んでいる」と経済産業省の北畑隆生事務次官は分析する。
日米欧では「協調路線が顕著」で、1国で特許が認められれば、他国でも早期に審査される「特許審査ハイウェイ」が特定国間で始まっている。
一方で、「途上国や新興工業国の知財保護はまだ不十分。知財権侵害は深刻」という。この典型例が、先進国を悩ます中国の知財問題だ。
北畑次官は「中国政府は前向きに取り組んでいる」と評価するが、現実的対策として、違法品の流入を防ぐ水際阻止に注力し、技術流出も防ごうと対策を練る。
今年3月、自動車部品大手デンソーの中国人技術者が、大量の設計データを持ち出す産業スパイ事件が発覚した。中国人技術者は刑法上の横領容疑で逮捕されたものの、容疑が固まらずに起訴されなかった。
「特許や商標だけでなく、企業のノウハウや営業秘密のような部分に知財の重要性が移ってきている。労働者の技能などをどうやって守るかが、これからの国家戦略だ」
こうした秘密が流出するルートは3つ。モノ(製品)を分解されて模倣される場合と、人(技術者)などを引き抜かれる場合、それにカネ(資本)で企業が買収される場合がある。
ヒトを通じた技術流出を防ぐためには規律と処遇の両面の対応が必要だ。規律は守秘義務契約の厳格化や不正競争防止法などの罰則、処遇は技術者らへの厚遇による引き留め策という。
カネをテコにした技術流出は、日本企業が買収されることで起きる。対抗策としては買収防衛策が有効だ。また、外為法では外資規制の形で、軍事やテロ行為に転用される恐れがある技術や製品に関連する企業の株式を外国企業が保有する際に届け出を義務づけているが、この対象範囲を広げる予定だ。
「知財流出のリスクをすべてカバーできる制度はないが、守るべき知的財産や産業は何かということを官民で議論することが必要」
そんな問題意識が、政府の知財政策の根底に流れているという。
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